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『レ・ミゼラブル』包括論
── 世紀を越える神話創造 ──

　商品NO:BSH-866
　A5判／528ページ／発行:2023.12

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『レ・ミゼラブル』包括論　世紀を越える神話創造　内容詳細

ユゴー研究の第一人者・稲垣直樹による、長年の『レ・ミゼラブル』研究の集大成!
刊行当時の一般読者の大反響とレアリスム小説家たちの酷評とのギャップから、執筆時の時代背景、著者ヴィクトル・ユゴーの思想、小説技法、失墜したナポレオンの運命を引き継ぐ形で主人公ジャン・ヴァルジャンの物語を紡ぎ19世紀という時代を再構築しようとしたユゴーの企図、また舞台・映画など諸芸術へのアダプテーションまでを精緻に解き明かし、時代と国を越え人々が熱狂する『レ・ミゼラブル』の神髄に迫る。

著者：稲垣直樹

『レ・ミゼラブル』包括論　目次

『レ・ミゼラブル』包括論世紀を越える神話創造 |学習と教育を支援する通販会社-YTT Net

▶凡例
▶序章

▶第一部　「神話」成立に向けて

▪第一章　時代背景 ―― 近代市民社会とその基本的特質

表象主体としての人間、「個別性の美」
広義の「パラダイム」という語
「近代」のマクロ・パラダイムの最深部
persona から「個人」へ、そして「人権宣言」
「普遍性の美」から「個別性の美」へ
芸術の受容者としての不特定多数と職業芸術家の登場
直線的時間、因果関係
十九世紀と二十世紀の各パラダイム
百年ごとのミドル・パラダイム
十九世紀のミドル・パラダイム ―― 身体的な時間・空間認識
二十世紀のミドル・パラダイム ―― 超身体的な時間・空間認識

▪第二章　作者ユゴーの社会的ステータス

「予言者」としての文学者
革命期の脱キリスト教現象
ユゴーの洗礼問題
既存の宗教からの自由
「近代国民国家」建設と文学者の自覚
メディア戦略の先駆者ユゴー、
　　　　　　　『レ・ミゼラブル』の位置づけ
ユゴーが Victor Hugo となる
「朗々たるこだま」ēcho sonore あるいは「放物面鏡の詩学」
十九世紀の歴史とユゴーのキャリア
「レ・ミゼラブル」の執筆過程

▪第三章　レアリスムの時代の「神話」創造

レアリスム小説の方法論
先駆者ウォルター・スコットのフランス導入
ユゴーのスコット論
　　　―― 「劇的小説」roman dramatique とは何か
narratologie から見るスコットの小説技法
スコットの小説技法を実践した
　　　　ユゴー最初の長編小説「アイスランドのハン」
レアリスム小説としての「レ・ミゼラブル」
レアリスム小説の方法による「神話」創造
レアリスム小説家たちの「レ・ミゼラブル」批判の詳細
「神話」創造の意味
登場人物の名前
神話と叙事詩の登場人物像
「レ・ミゼラブル」物語冒頭の非現実的なプロット設定

▶第二部
　「神話」としての『レ・ミゼラブル』

▪第一章　背景としてのシンクレティズムと『聖書』

「神話」のプレリュード ―― 1815年、ディーニュの町
ナポレオンの影
「十九世の扉」 ―― ジャン・ヴァルジャンとナポレオン
ミリエル司教、神の「慈愛」の代行者
ミリエル司教、ユゴーの思索の代弁者
ミリエル司教、フランス革命とナポレオン
ジャン・ヴァルジャンの使命
銀の燭台のエピソード、グノーシス主義
ユゴーの宇宙論から見るジャン・ヴァルジャン
サン=シモン主義による福祉の実現
鏡またはシンメトリーの深層支配
グノーシス主義における鏡
ジャン・ヴァルジャンの改心の場面
カバラ的なるものの射程
「闇の口の語ったこと」の輪廻転生思想の起源
仏教における輪廻転生の無限の連鎖
ユゴーの宗教思想と『レ・ミゼラブル』における「愛」の意味
青年期の「聖書」受容とその連続性
ギリシア世界の四つの「愛」と『新約聖書』の「愛」
ユゴーにおける「愛」の概念
「レ・ミゼラブル」における「愛」のテーマ

▪第二章　「鏡」と「神のシナリオ」

「鏡」、シンメトリーのプロット構成
構文のシンメトリー
ジャン・ヴァルジャンの「鏡」
「鏡」による逆転のシステム
コゼットとエポニーヌの「鏡」
コゼットの原型物語 ―― フロイトが発見した物語
エポニーヌの原型物語 ―― 暗黒ジャンルの「起源の小説」
フランス革命、現実と文学の相互干渉
武装蜂起と暴動、普通選挙の意義
「血の祝祭」「九十三年に対する恐怖」
革命の原風景 ―― カーニヴァル的倒錯と暗黒文学
王党派時代の青年ユゴーと暗黒文学
暗黒小説としての「アイスランドのハン」（1823）
怪物ハンから超人ジャン・ヴァルジャンへ
ハンからハビブラへ
ハビブラからカジモドへ
カジモドからトリブーレ、クロード・グーへ
1832年六月の武装蜂起
「血の祝祭」の再来と民衆神話
史実としての1832年6月の武装蜂起
市街戦における武器の有効性
革命が可能な都市構造
武装蜂起と民衆神話
武装蜂起の意味するもの
マブーフ老人 ―― 過去から現代の革命へ
マリユス ―― 現代の革命の闘士
ガヴローシュ ―― 未来の革命の担い手
未来の民衆の教育
ジャン・ヴァルジャン、ガヴローシュ、ジャヴェール
ジャヴェールの最期と法の軛の最後
ジャン・ヴァルジャンとジャヴェールの共通の着想源
六月武装蜂起と「神のシナリオ」

▪第三章　世界の再生へ

「民衆」概念の光と影
「彼もまた十字架を負う」
「脱線」の有効性と民衆の言葉「隠語」
les miserables の二つの意味とパトロン=ミネット
救いようのない les miserables 代表格テナルディエ
カーニヴァルと「革命の原風景」
「レ・ミゼラブル」における「血の祝祭」の記憶
暗黒演劇とカーニヴァル
統制された「革命の原風景」
カーニヴァルと世界の再生
マリユスとコゼットの婚礼
婚礼の馬車が辿る道
新しい世界の到来の儀式
ジャン・ヴァルジャンの道
ジャン・ヴァルジャンの最期
マリユスの運命、ユゴーの使命

▶第三部
　世紀を越える「神話」、その再創造

▪第一章　日本におけるユゴーと『レ・ミゼラブル』

近代の「神話」としての『レ・ミゼラブル』の特殊性
近代の「神話」の広がり
反復・増殖可能な物語構造
自由民権運動とユゴー
近代日本とユゴーの邂逅 ―― 板垣退助のユゴー会見
自由民権運動におけるユゴー像の政治利用
『国民之友』の『レ・ミゼラブル』受容 ―― 文学と政治
文学としての「レ・ミゼラブル」評価
「個人に対する社会の罪」の主張
「レ・ミゼラブル」邦訳の試み
黒岩涙香のベストセラー縮約『噫（ああ）無情』
新聞連載小説のエンターテインメント性
翻訳ではなく縮約（ダイジェスト）―― 絶妙の語り口
「噫無情」における神の問題
その後のユゴー移入 ―― 長田秋濤「鐘楼守」といわゆる「ユゴー全集」
本質に迫る土井晩翠のユゴー受容
処女詩集「天地有情」まで ―― 「造花の妙」と人生の無常との対比
第二詩集「暁鐘」 ―― 無常観から宗教的宇宙観へ
晩翠による「降霊術」の実践
戦後日本における『レ・ミゼラブル』
多数の完訳とダイジェスト版の刊行
漫画、映画、連続ドラマそしてミュージカルへ

▪第二章　二十世紀の『レ・ミゼラブル』、そして……

ミュージカルへの脚色と映画化作品
ミュージカル「レ・ミゼラブル」の成立
ストーリー展開と主な歌唱曲
「十周年記念コンサート」に収斂する完璧さの追求
ロンドンからブロードウェイへ、日本へ、そして世界へ
社会主義政治体制の崩壊と「革命」の商業化
映画化作品のさらなるエンターテインメント性
格差社会の「連帯」とカタルシスの汎用性
原作における「愛」の概念とキリスト教文化圏へのメッセージ
第二次世界大戦後の映画化作品
ジャン=ポール・ル・シャノワ監督、ジャン・ギャバン主演（1958）
戦後復興と映画のファッション性
ローベール・オッセン監督、リノ・ヴァンチュラ主演（1982）
ビレ・アウグスト監督、リーアム・ニソン主演（1998）
クロード・ルルーシュ監督『レ・ミゼラブル』（1995）
二十世紀の「レ・ミゼラブル」を創造する
監督自身のアイデンティティとユダヤ人一家登場の意味
原作と映画の二重奏としてのプロット展開
テナルディエ ―― 人間存在の深層の悪と不条理
二十世紀では誰もが miserable である