はじめにより
奈良絵本・絵巻を研究していると、さまざまなことに気づく。そのことは本書でこれから述べていくが、
今いちばん気になっているのは、奈良絵本・絵巻と『ガリバー旅行記』との関係である。
『ガリバー旅行記』は、イギリスの作家スウィフトが、1726年に刊行した空想冒険物語である。
幼少期に読む本として、世界的に知られた作品で、日本でもさまざまな絵本が出版されている。
子供向けの『ガリバー旅行記』のほとんどは、いわゆるダイジェスト版であるが、
こびとの国でカリバーが拘束される様子は、現代もほとんどすべての人が記憶しているであろう。
その『ガリバー旅行記』とよく似た話が日本に存在している。
それは御伽草子に属する『御曹司島渡』という作品で、源義経が兵法書を求めてさまざまな島を訪れる
という話である。その『御曹司島渡』には、こびとの島や背高島、さらには馬人の島が登場し、
『ガリバー旅行記』と共通するのである。おそらく『御曹司島渡』を知っている人はみな、それが
『ガリバー旅行記』と似た話であることに気づいているはずである。
物語の成立年代は『御曹司島渡』のほうが百年以上も古いのだが、さすがに日本の作品がスウィフトの作品
に影響を与えたとはにわかに言えず、私も、どこの国でも同じような話が古くから作られているのだな、と考えていた…