古琉球王朝によって編纂された歌謡集『おもろさうし』は何をうたうのか?
伊波普猷、仲原善忠などの先行研究を引き継ぎ、久米島討伐の敗者を「イベ」として祀る官人「ヒキ」の役割に着目しつつ、聞得大君、神女、キンマモンといったキーワードを手がかりに、古琉球の王宮儀礼の実態とその背景を解き明かす意欲的な試み。
監修:真喜志瑶子
本書がとりあげるのは、尚真王(在位1477~1526年)による、久米島・八重山征伐や、次の尚清王(在位1527~1555年)の大島征伐によって版図を広げ、中央集権的な統治が完成し、官人組織「ヒキ」や、祭祀儀礼制度が整い、首里城の聖域、首里森・真玉森のある「京の内」が整備されたといわれる時代の、主に、王宮の祭祀儀礼の実態と祭祀歌謡オモロにかかわり、オモロにうたわれた人びとと、その周辺のさまざまな事柄である。王府による討伐という、政治的な事件の影響により成立し実施された、古琉球期の王宮儀礼、とくに稲祭や五穀の祭りミシキヨマそのほかの貢納儀礼、その一部としての儀礼歌としてのオモロは一体何をうたうのか、オモロ解釈の基礎的問題を検討したうえで、従来説とは視点を変え、久米島討伐が王宮儀礼とオモロに与えた影響を考える。久米島のイベを祀る者たちが、ヒキ官人として主要な王宮儀礼を行ったこと、かれらをうたうオモロが『おもろさうし』の主要部分を占めていることを推定する。これらの考察を通して、敬遠されがちなオモロ研究の風通しをよくすることに役立ちたい。
―― 本書「はしがき」より